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元検事のコラム

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ストーカー規制法について(その6)

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ストーカー捜査には他にはない特性があり、それがいくつかの行為がまとめて1つの犯罪とされる点と絡めて、難しいものにさせています。

ストーカーの何が恐ろしいかというと、いつ重大事案に発展するか分からない点です。

ストーカー事案が殺人等の重大事案に発展した例は多くあります。

被害者が警察に相談している最中に重大事案が発生してしまい、後にその警察の対応に批判がなされることも珍しくありません。

重大事案に発展するのはストーカー事案の中でも全体としてみればごく一部に過ぎないのですが、どのような事案が重大事案に発展するのか予測は不可能に近いです。

そのため、今日の警察においては、ストーカー事案の相談を受けた際にはいつ重大事案に発展するかもしれないという危機感を抱いて、迅速にしっかりとした対応をしていると思われます。

ストーカー事案はいきなり刑事事件化するとは限らず、まずはストーカー規制法に基づく警告をする場合が多いと思います。この場合、ストーカーをした者を警察に呼び出して、警察官が書面を交付しつつ警告します。これでその後の被害を抑止できる場合も少なくありません。

これに対し、警告してもなお繰り返す場合や、悪質で一刻の猶予もなさそうな場合には、刑事事件化することになります。

刑事事件化といっても、ストーカーは類型的に被害者に働きかけを行う危険(口止めや示談を強要するなどの危険)が大きい犯罪ですから、被疑者を逮捕して捜査を進める場合が多いです。

もっとも、逮捕をするにあたっては、逮捕状を得るための捜査をしなければなりません。前回説明したとおり、1回きりの行為ではストーカーの犯罪にならないため、少なくとも3~4つのつきまとい等を特定しなければなりません。脅迫など他の事案であれば3~4つの犯罪になるにもかかわらず、1つの犯罪として捜査をしなければならないのです。もちろん逮捕に耐えうる(逮捕状が発付されるに足りる)程度の証拠を集める必要があります。

そして、このような捜査をきわめて短期間に行わねばなりません。刑事事件化をする場合は、悪質な事案や警告書を無視するような事案ですので、非常に危険です。重大事案に発展する可能性がありますので、悠長なことは言っていられません。

被害者からしっかり話を聞き取って、3~4つ以上のつきまとい等の事実を特定しなければなりません。単に事実を聞き取るというだけでなく、何号に該当するのかを検討しながら、つまり「これは1号の待ち伏せに該当するか」とか「5号の無言電話に該当するか」ということを考えながら被害者の話を聞き出しますし、並行してそれを裏付ける証拠を探します。

これはかなり大変な作業で、多大な労力と時間を要します。

ストーカーの被害者から話を聞く際は、それまでの経緯やつきまとい等になるかもしれない行為を一つ一つ確認しなければならず、聞くべきことが大変多くなるため、どうしても長時間になりがちです。被害者に大いに負担となりますが、捜査員(警察官)も大変です。

話を聞くだけでなく、裏付け捜査も進めなければなりませんので、これまた大変です。

このような大変な捜査を突貫工事で進めなければなりません。

そうして急いで捜査をした上で犯人を逮捕するのですが、それでも終わりではありません。勾留期間中に、被疑者の話をしっかり聞きつつ、詳細を解明したり、裏付け証拠を探したりするなどの捜査を進める必要があるのは他の犯罪と同様ですが、それに加えてストーカーの捜査では、逮捕事実とは異なるつきまとい等を発見し、証拠を集める必要が生じる場合が少なくないのです。

というのも、逮捕状の事実に含まれるつきまとい等が、証拠が足りなかったりして十分に認定できないなどの場合があるからです。前述のとおり警察はたいへん急いで捜査を進めなければならないため、このような事態が生じるのもやむを得ないと思います。

逮捕状の事実で10個のつきまとい等事実を特定していたとして、そのうちの1個だけ証拠が足りないというのであれば、9個残りますので大きな問題ではありません。しかし、逮捕事実が4個のつきまとい等しかなく、そのうちの2個の証拠が弱いという場合は、難しい問題となります。残された2個だけでは「反復」の要件を満たさない可能性が高く、そうなればストーカーの犯罪が成立しないからです。

このような場合、最大20日の勾留期間を利用して、ほかのつきまとい等の事実を発見し、公判維持に耐えうる証拠を揃える必要が生じます。

この捜査がまた大変なのです。

しかしながら、安易に不起訴にしてしまうと犯人に誤ったメッセージを与えかねず、それこそ重大事案に発展しかねません。しっかりと捜査をすればストーカーで起訴できたのに、捜査を怠った結果不起訴になってしまうというのは絶対に許されません。

このようにストーカーの捜査は一般犯罪の捜査と比べて、時間の猶予がない反面やるべき作業が多いという特徴があり、非常に大変なものとなります。もたもたしていると重大事案に発展するリスクがあることから、プレッシャーも大きく、捜査官の負担は非常に大きいものとなります。

ストーカー事案を捜査し、立件するためには少なからぬ困難があります。

ストーカー事案は、ありふれた犯罪のように思われるかもしれませんが、他の犯罪と比べても非常に難しい類型の犯罪といえます。

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