電車内で痴漢・盗撮行為を疑われると、被害者や周囲の乗客によって、次の停車駅で下車させられることが多くあります。駅員に引き渡された後は、駅員室に連行されることになります。警察官が駅に到着した後は、被疑者は警察官に引き渡され、最寄りの警察署に連行されます。
警察署に連行されると、そのまま警察による取調べが行われ、警察署の留置場に留置されてしまうことがほとんどです。そのため、警察署に連行される前、駅員室の段階で、ご家族に連絡するなどして、痴漢・盗撮事件に強い弁護士への依頼を頼んでおくことが大事です。逮捕される前に弁護士に依頼できれば、早期に逮捕を免れるための弁護活動を開始することができます。
ここで注意が必要なのは、現場から逃走したり、逮捕されなかった場合であっても被害者に直接謝罪したり示談を申入れたりすることはデメリットが大きいためお勧めできないということです。
実際には痴漢・盗撮をしていないのに逃走すれば、自分がやったと認めたと推認されてしまうことがありますし、謝罪・示談の申入れをしてしまうと、後で警察等にやっていないと主張しても信用してもらえなくなってしまうからです。また、逃走した場合、一旦は逃げ切れたとしても、警察の捜査により特定がされれば、逮捕されるリスクが高まってしまいます。
もし無罪を主張する場合には、その場から逃げたりせず、毅然とした態度で自分はやっていないことを明言すべきであり、その際には相手とのやり取りを録音しておいた方がよいでしょう。
釈放されるまで身柄が拘束される
逮捕されると、警察による取調べを受け、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄と事件は警察から検察へと送致されます。検察官は、事件の送致を受けると、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれの有無など引き続き被疑者を拘束する必要があるかどうかを判断し、必要がある場合には24時間以内に裁判所の勾留請求を行います。
裁判所が勾留請求を認めると、最大で20日間にわたって、被疑者の身柄は警察署内の留置施設に留置され、引き続き警察官や検察官からの取調べを受けることになります。
さらに、検察官に起訴されると、起訴後も勾留が継続される可能性があります。起訴後の勾留期間は原則として2ヶ月ですが、その後も勾留の必要性が認められれば、1か月ごとに勾留期間が更新されることになります。
犯罪を認めている事件(=自白事件)には、起訴されてから判決が出されるまで2週間から2ヶ月程度になります。重大事件や犯罪事実を争う事件(=否認事件)の場合には、数か月から数年かかるときもあります。
保釈請求が認められなければ、留置施設や拘置施設で身柄を拘束されたまま裁判を受けなければなりません。
懲役刑や罰金刑などの刑罰が科される
痴漢や盗撮は迷惑防止条例によって規制されています。
その法定刑は、東京都を例にすると、下記の通りとなっています。
痴漢
6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金
盗撮
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
常習の場合には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金
痴漢や盗撮にはいずれの場合も罰金刑が法定されています。そのため、略式裁判の可能性があります。
略式裁判とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する100万円以下の罰金又は科料に相当する、事案が明白で簡易な事件について、被疑者に異議のない場合に、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。
これは、非公開による書類審査のみで判決がなされるためスピーディーであり、早期に社会復帰できる、本人が法廷に出頭する必要がない、傍聴人に裁判の内容が漏れるおそれがない、手続が早く終わる、などのメリットがある一方で、本人が言い分を述べることができない、必ず有罪になる、というデメリットがあります。
実名報道がなされるリスクがある
マスコミによって実名報道がなされるかどうかについて、明確な基準があるわけではありません。もっとも、報道機関が「社会的に関心が高い」と判断した事件に関して実名報道がなされることが多い傾向にあります。
痴漢や盗撮の被疑事実で逮捕されたとしても、実名報道はなされないことが多いです。しかし、加害者が公務員である、著名人であるなどの例外的な場合には、実名報道がなされてしまうおそれがあります。
失職・退学等の社会的制裁のリスクがある
痴漢や盗撮を犯してしまった場合、その事実のみで実刑判決により刑務所に収監されるということは考えにくいです。
もっとも、逮捕・勾留されることは珍しくありません。身体拘束による精神的・肉体的苦痛のほか、逮捕された段階で3日間、勾留が認められればさらに最大で20日間にわたって身体拘束が継続されるため、長期欠勤による失職・退学など、深刻な社会的制裁のリスクがあります。
逮捕後から勾留請求までの最大72時間の間、面会ができるのは弁護士だけ。
警察に逮捕されてから、検察官が勾留を請求すべきかを判断するまでの最大72時間は、たとえご家族であっても被疑者と面会することはできません。
弁護人であれば、一切の制限なく逮捕された方と面会することができます。これにより、ご家族との連絡や、失職・退学を未然に回避するための活動をすることができます。
勾留回避に向けた弁護活動をする
勾留されてしまうと、身体拘束期間が比較的長期に及び、解雇や自主退職を求められるなど、失職・退学等の社会的制裁のリスクが格段に増加します。
弁護士は、勾留を回避するために、犯罪の嫌疑がないことなどに加え、罪証隠滅や逃亡の危険性がないこと等を主張して、検察官に勾留請求しないよう説得したり、裁判官に勾留請求を却下するよう働きかけて、身体拘束からの解放を目指す弁護活動をします。
相手に示談交渉をしてもらえる確率が上がる
ご本人が罪を犯したことを認めている場合、早期に被害者との示談が成立すれば勾留を未然に回避できる可能性が高まり、また起訴猶予による不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
しかしながら、ご本人やそのご家族が、直接被害者と示談の交渉をすることは、感情を逆撫でするおそれもあり、現実的に考えてかなり難しいものがあります。
そこで、弁護士がご本人に代わって、示談交渉を行い、示談に応じてもらえるよう、粘り強く活動します。第三者であり、かつ専門家である弁護士が間に入ることにより、「弁護士となら話をしてもよい」と態度が軟化する被害者も多くいます。
被害者から示談交渉を拒絶されてしまえば、そもそも示談の余地はなく、身柄拘束が継続される可能性や、起訴される可能性は高くなるため、被害者に交渉に応じてもらえる確率が上がるというのは、大きなメリットです。
示談書を作成できる
被害者と無事示談が成立したとしても、示談金を支払っただけであったり、示談書を作成したとしても、不適切・曖昧な文言で作成してしまうと、検察官から不起訴処分を獲得するための有効な資料とすることができなかったり、裁判官から執行猶予付判決を得るための有効な証拠にすることができないおそれがあります。
専門家である弁護士に依頼することで、刑事事件だけでなく、将来民事上の紛争に発展しないよう、法的に有効・適切な示談書を作成することができます。
罪を犯したことを認めている場合
ご本人が罪を犯したことを認めている場合、弁護方針としては、何よりも被害者との示談をすることが大事になります。示談交渉を開始するのは早ければ早いほど良く、ご本人が逮捕・勾留されてしまった場合であっても、勾留満期までに被害者との示談が成立し、示談金の支払いが完了していれば、特に初犯であれば、不起訴処分を獲得できる可能性がかなり高くなります。
示談が成立するまでの流れは、以下のようになります。
弁護士が被害者の連絡先を入手
弁護士は、検察官を通じて被害者の連絡先を尋ねます。被害者が、「連絡先を教えて良い」と言えば、被害者の連絡先を入手することができます。連絡先は、ご本人には通知されません。
被害者へ示談の意思があること及び「謝罪文」を送付
まずは、被害者に対して、ご本人が示談を望んでいることを伝えます。ご本人の手書きの謝罪文を同封することもあります。
1回目の示談金額の提示
被害者が示談の話し合いに応じてくれるということであれば、具体的な示談金の話し合いを行います。ある程度相場などを考慮し、ご本人やご家族と打合せをしたうえで、金額の提示を行います。
金額のすり合わせ
被害者からこちらの提示額よりも高い示談金額の提示を受けた場合、今度はこちらでその条件について検討します。このようにして、双方が示談金についての条件をすり合わせ、合意がまとまった段階で、示談が成立します。
示談書を作成・示談成立
示談が成立したときは、弁護士が示談書を作成し、被害者とご本人又は代理人弁護士が双方署名押印することになります。その後、ご本人側で示談書の内容に従って被害者に対して示談金を支払います。
注意すべき点として、不起訴処分を獲得するためには、勾留満期までに示談が成立するだけでなく、示談金の支払いまで完了している必要があります。
罪を犯したことを争う場合
痴漢・盗撮を争う場面
罪を犯したことを争う場合としては、そもそも痴漢・盗撮の被害自体が存在しない、誰かが痴漢・盗撮をしたのかもしれないがその犯人は自分ではない、被害者の身体に触れてしまったがそれは痴漢する意図のものではない、などが考えられます。
犯行を否認した場合の警察の取り調べ
ご本人が犯行を否認した場合、警察等の捜査機関は様々なことを言って自白させようとしてきます。たとえば、「見え見えの嘘をついていると出られない」、「罪を認めた方が早く出られる」、「争うことを勧めるような弁護士はダメな奴だ」などです。
しかし、特に痴漢事件はそもそも証拠となるものが少なく、ご本人が罪を犯したことを否認することは捜査機関にとって都合が悪いだけなのです。検察官は、被疑者の犯罪を立証するだけの証拠が不十分であると判断した場合には、嫌疑不十分で不起訴処分にします。そのため、粘り強く取り調べに対応することが大事です。
弁護活動
不利な書面を作られないようにする
やってもいない痴漢・盗撮の犯罪事実について、厳しい取調べに耐え切れずに認めてしまい、それが調書という形で書面化されてしまうと、後になってその内容を裁判で否定して争うのは難しくなってしまいます。
そのため、弁護方針としては、まずはご本人にとって不利な書面を作られないよう、ご本人に対して親身になって適切にアドバイスしていきます。逮捕後すぐに弁護士と接見し、適切なアドバイスを受けることができれば、ご本人に不利な書面を1枚も作らせないことが可能です。
また、早い段階でご本人の言い分を正確な形で具体的に供述し、これを書面化してもらえば、被害者の供述よりも信用できる証拠にしていくことができます。
捜査機関は被疑者の言い分を正確に記録しない可能性も十分に考えられますので、逮捕後すぐに弁護士と接見し、ご本人の供述を正確に聞き取り、これを証拠化していくことが重要です。
痴漢・盗撮を否定する方向に有利な証拠を収集する
さらに、検察官から不起訴処分を獲得したり、裁判所で無罪判決を獲得するために、痴漢・盗撮を否定する方向に有利に働く証拠(防犯カメラや現場にいた人の証言など)を収集することも必要になってきます。これに加えて、裁判においては、被害者や目撃者の供述の矛盾点や不合理な点を裁判官に示し、その信用性を争うことも重要になりますので、弁護士は裁判において的確な反対尋問を行っていきます。
痴漢・盗撮を疑われた場合、もし罪を犯したことを認めている場合には、何よりも被害者との示談を早期に成立させるよう、弁護士に依頼されるのが得策です。
一方で、罪を犯したことを争う場合には、警察からの取調べに適切に対応するため、弁護士に依頼し、常にアドバイスをもらうことが大事です。不利な書面を作られてしまってからでは遅いため、逮捕後、なるべく早い段階での依頼がお勧めです。