過失であっても刑事責任を問われうる
交通事故で人を死傷させてしまった場合、それが故意(人を死傷させるつもりの行為)でなかったとしても、過失(必要な注意を怠っていた場合)があれば処罰の対象となります。具体的には、自動車運転死傷処罰法により過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。
厳罰化が続いている
交通事故被害による死者は年々減少している一方で、交通法規は度重なる改正により厳罰化が続いています。
従来は刑法上の業務上過失致死傷罪で5年以下の懲役が限度だった行為は、平成26年に施行された自動車運転死傷処罰法で、過失運転致死傷罪として7年以下の懲役が科されます。
また、危険運転致傷罪には15年以下の懲役、同致死罪には1年以上20年以下の懲役が科されます。
さらに、令和元年12月の道路交通法改正では、携帯電話の使用等に1年以下の懲役、保持等に6ヶ月以下の懲役が科されることになりました。
令和2年6月の道路交通法改正では、あおり運転が厳罰化され、妨害運転罪として3年以下の懲役が科されることになりました。
以下では、事件類型ごとにその特徴や、特徴に沿った弁護方針をご説明します。
過失運転致死傷罪とは
自動車の運転上必要な注意を怠り、人身・死亡事故を起こしてしまった場合、自動車運転死傷処罰法に基づき、過失運転致死傷罪に問われます。
過失運転致死傷罪の法定刑は、負傷・死亡のいずれも、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金となっています。もっとも、無免許運転の場合には、より重く10年以下の懲役が科せられます。
危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪は、条文が規定する行為の典型例を示すと、以下のような行為で人を死傷させた場合に適用されます。
- ①飲酒運転
- ②超過速度
- ③無免許運転
- ④走行中の自動車の直前に妨害目的で進入するなどして著しく接近
- ⑤走行中の自動車の前方で妨害目的で停止するなどして著しく接近
- ⑥高速道路上において妨害目的で走行中の車を停止又は徐行させる行為
- ⑦信号無視
- ⑧通行禁止道路の進行
④・⑤については、近年多発するいわゆる“あおり運転”に対処するために、令和2年6月の改正で規定されました。
危険運転致死傷罪の法定刑は、人を負傷させた場合には、15年以下の有期懲役(無免許運転の場合には6ヶ月以上の有期懲役に加重されます)が科されます。人を死亡させた場合には、1年以上の有期懲役が科されます。
道路交通法違反については、「ひき逃げ・あて逃げ」をご確認ください。
ひき逃げとは
ひき逃げとは、人身事故の際に運転者や同乗者が一定の義務を果たさなかった場合をいいます。
ひき逃げは、自動車やバイクの交通によって人が死傷していることから、「交通事故」(道路交通法第67条第2項)にあたります。
この場合、車両等の運転者等には、負傷者を救護する義務が生じます(救護義務・同法第72条1項前段)。この救護義務に違反すると、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せされます(同法第117条第1項)。
あて逃げとは
あて逃げとは、物損事故の際に運転者や同乗者が一定の義務を果たさなかった場合をいいます。
あて逃げも、自動車やバイクの交通によって物が損壊しているため、「交通事故」にあたります。
この場合、車両等の運転者等には、道路における危険を防止する等必要な措置を講じる義務(危険防止措置義務・同法第72条第1項前段)が生じます。この義務に違反すると、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられます(同法第117条の5第1項)。
また、車両等の運転者等には、警察官に当該交通事故について報告する義務(報告義務・同法第72条第1項後段)も生じます。この義務に違反すると、3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金(同法第119条第1項)が科せられます。
酒気帯び運転・酒酔い運転とは
酒気帯び運転とは、政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態(道路交通法第117条の2の2第3号)にある者の運転をいい、その基準は、体内のアルコール濃度が、血中0.3mg/ml、又は呼気中0.15mg/l以上の状態(道路交通法施行令第44条の3)とされています。
酒酔い運転とは、アルコール濃度に関係なく、まっすぐ歩けない、受け答えがおかしいなど、正常な運転ができないおそれがある状態の者の運転です(同法第117条の2第1号)。
規制の対象となる行為
- ①酒気帯び運転(同法第65条第1項)
- ②酒気帯び運転者に対する車両等を提供する行為(同条第2項)
- ③酒気帯び運転をするおそれのある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒を勧める行為(同条第3項)
- ④酒気帯び運転をしている者に対して、自分を運搬することを要求又は依頼して同乗する行為(同条第4項)
法定刑
上記の4つの行為の法定刑は、いずれも3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(同法第117条の2の2第3ないし第6号)となっています。
酒酔い運転は、酒気帯び運転に比べて重く、法定刑は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています(同法第117条の2第1号)。