クレプトマニア(窃盗症)とは
クレプトマニア(窃盗症)とは、盗みたいという衝動をコントロールすることができず、悪いことだと分かっていながら盗みを繰り返してしまう精神障害のことをいいます。
クレプトマニア(窃盗症)の窃盗は、一般的な窃盗と異なり、以下の特徴があります。
- ①その物を盗んでどうしようという目的や意図がない。
- ②盗もうとする衝動に駆られると、途中でその衝動を抑えることはできず、止められない。
- ③盗もうとする衝動に駆られる前と後では、理性的・現実的な思考が低下・停止し、思考内容が変わってしまう。
- ④盗んだ後、自分の行動を時系列に沿って十分な説明をすることが出来ない。
そして、クレプトマニア(窃盗症)の方は、繰り返し、窃盗を行ってしまうので、起訴される場合には、通常の窃盗罪ではなく、常習累犯窃盗罪という重い罪となる場合もあり、この場合には、より重い刑を科されることになります。
しかしながら、クレプトマニア(窃盗症)は精神障害ですので、刑罰による矯正によっては、更生することが出来ず、同じことを繰り返してしまう傾向にあります。
クレプトマニア(窃盗症)の診断基準
クレプトマニア(窃盗症)には、米国精神医学会作成の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)によれば、以下の診断基準が用いられます。
- ①個人的に用いるためでもなく、又はその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
- ②窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
- ③窃盗に及ぶときの快感、満足または解放感。
- ④その盗みは怒り又は報復を表現するためのものではなく、妄想又は幻覚への反応でもない。
- ⑤その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。
クレプトマニア(窃盗症)と診断される方の特徴
クレプトマニア(窃盗症)の症状のある方には、次の特徴があります。
- ①盗むことが犯罪だと分かっている。
- ②盗みをしてはいけないし、盗みをしたくないと思っている。
- ③盗みをすることが犯罪であることはわかっているし、処罰を受けることもわかっている(または受けたこともある)。
- ④にもかかわらず、いつの間にか、また盗みをしてしまう。
- ⑤なぜ盗みを繰り返してしまうのか自分でもわからない。
クレプトマニア(窃盗症)は、過食症や拒食症といった摂食障害、不安障害、強迫性障害、アルコール・薬物依存症などを合併しているケースが多く見られます。しかし、両者の関係性は明らかになっていません。 他の精神障害との合併率について、以下のような報告がされている研究もあります。
他の精神障害 | 合併率 |
---|---|
感情障害 | 45~100% |
不安障害 | 60~80% |
強迫性障害 | 0~60% |
物質使用障害 | 23~50% |
他の衝動制御障害 | 20~46% |
摂食障害 | 10~44% |
パーソナリティ障害 | 43% |
クレプトマニア(窃盗症)には治療が必要
上述したように、クレプトマニア(窃盗症)は精神障害の1つであり、刑罰による矯正は困難であることから、繰り返される窃盗行為を止めるためには、自らが以下の意識付けを行うことが必要とされています。
- ①自分が病気であることを知り、理解する。
- ②自分の行動メカニズムを受け入れる。
- ③一人で店に入らない等、盗みたいという衝動に駆られないための環境作りの重要性を知る。
- ④その環境作りを確実に実行する。
- ⑤一人で店に入っても大丈夫だったとしても、このような「見せかけの回復」に騙されず、治療を続ける。
一人でこのような意識付けをすることはとても困難ですので、クレプトマニア(窃盗症)の治療を手掛けている医療機関での長期的な通院・治療の継続が必要です。また、クレプトマニア(窃盗症)についての勉強会に参加したり、書籍を読むことにより、自身の障害についてより深く理解することが、障害を克服することにつながります。
本人にそのような認識がなく、窃盗を繰り返してしまっているような方については、クレプトマニア(窃盗症)に関する知識のある弁護士による弁護活動が必要不可欠となります。
取り調べ段階での方針
上述したように、クレプトマニア(窃盗症)の方は、盗んだ後、自分の行動をうまく説明できないため、取調べにおいても、捜査官に対しうまく説明ができず、捜査官のストーリーに沿った供述調書を作成してしまうことがあります。
このような供述調書が作成されてしまうと、通常の窃盗犯と同じようにしか認識されず、クレプトマニア(窃盗症)という障害が見過ごされたまま、裁判手続きが進められてしまうことになります。
自分がクレプトマニア(窃盗症)であれば、取調べにおいても、捜査官にそのことを告げるべきであり、当該障害があることも弁護活動の中で主張することが重要です。また、捜査官が、クレプトマニア(窃盗症)に理解がなく、不適切な取調べを続けるようであれば、そのような取調べを是正するよう求めていきます。
裁判手続き段階での方針
自分がクレプトマニア(窃盗症)であれば、専門医の診断を受けて、その旨の診断書を作成することは重要です。そのような診断書があれば、裁判所が判断する際の考慮の一材料となります。
また、今後、クレプトマニア(窃盗症)を克服する環境を作っていくことが情状酌量(刑罰を減軽すること)の一事情となり得るので、そのような事情を主張します。
裁判手続きの中で、上記の主張・立証が認められ、当該障害により、自身の行動が制御できず、責任能力に問題があるという判断がなされれば、通常の刑から減刑される可能性があります。
刑事手続き終了後の方針
有罪判決となったとしても、自分がクレプトマニア(窃盗症)であることを自覚していれば、自分の障害と向き合い、治療をすることで、今後の再犯を防ぐことにつながります。しかし、そのような自覚や認識がないと、繰り返し、同じような犯罪を繰り返してしまい、そうなると、罪を犯すたびに、刑はますます重くなり、更生することは困難となっていきます。
有罪となった場合には、刑に服した後に、自分の障害と向き合うことがとても重要です。
そのためには、専門的な医療機関に通院し治療を受けるほか、同じ障害に苦しむ方向けの自助サークルやセミナーに参加し、自身の障害と向き合うことが、障害の克服につながります。
クレプトマニア(窃盗症)の有病率は、DSM-5によれば、全人口の0.3%から0.6%、万引きで捕まる人の約2~24%と記載されています。決して、珍しい障害というわけではありません。無意識に何度も万引きを繰り返してしまう方や、ご家族にそのような方がいる場合には、専門機関にて診察を受け、治療をすることが大事です。刑事弁護においても、クレプトマニア(窃盗症)に理解のある弁護士に依頼することで、当該障害を踏まえた弁護活動を行うことが出来ますので、弁護士法人キャストグローバルにご相談ください。