起訴率は比較的低い
検察統計(令和元年度)によると、刑法犯全体の起訴率は約50%である一方で、強制わいせつの起訴率は29.9%、強制性交等は32.2%と比較的低くなっています。
不起訴となったケースの多くは、示談が成立するなどして起訴猶予や嫌疑不十分(証拠不十分)になったものです。
被害者の証言のみによって事実が認定されてしまう危険性がある
性・風俗犯罪では、被害者の証言が重要な証拠となって有罪判決がなされるケースがしばしばあります。
しかし、裁判官も人である以上、嘘や勘違いを必ず見抜けるとは限りません。
実際に、被害者や目撃者の証言は信用することができないとして、再審で無罪判決が出されたケース(大阪地裁平成27年10月16日判決、強制わいせつ・強姦再審被告事件)もあります。
今後も法改正で処罰範囲が広がる可能性がある
平成29年改正の際に積み残された課題がいくつかあります。
このうち、
- ・公訴時効…強制性交等罪は10年、強制わいせつ罪は7年を過ぎると罪に問えない
- ・性交同意年齢…被害者が13歳以上の場合、加害者が被害者に対し暴行や脅迫をしていないと有罪にならない
の要件については今後の法改正で撤廃され、処罰範囲が広がる可能性があります。
以下では、事件類型ごとにその特徴や、特徴に沿った弁護方針をご説明します。
痴漢とは
一般的に、着衣の上から身体を触る行為には迷惑防止条例が、着衣や下着の中に手を入れて胸や陰部を触る行為には刑法上の強制わいせつ罪が適用されます。
盗撮とは
盗撮は、迷惑防止条例によって規制されています。
東京都を例にすると、盗撮とは、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること、とあります(東京都迷惑防止条例第5条第1項第2号)。
平成30年改正により、規制の対象となる場所は公共施設だけではなく、住居・トイレ・浴場・更衣室や、不特定又は多数の人が入れ替わり利用する場所・乗り物(たとえば、カラオケボックスやタクシーなど)に拡大されました。
盗撮による迷惑防止条例違反の法定刑は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています。
強制わいせつ罪(刑法第176条)とは
強制わいせつ罪は、相手の同意なく、キスをする、服を脱がす、胸や陰部を触るなどした場合に成立します。また、悪質な痴漢行為にも強制わいせつ罪が適用されます。
強制わいせつ罪は非親告罪に変更
強制わいせつ罪は平成29年の刑法改正で、非親告罪となりました。そのため、被害者が加害者を告訴(=処罰を求めること)しなくても、検察官は加害者を起訴することができます。
強制わいせつ罪の法定刑
強制わいせつ罪の法定刑は、6ヶ月以上10年以下の懲役となっています。
公然わいせつ罪(刑法第174条)とは
「公然」とは、不特定又は多数の人が認識できる状態のことをいいます。公然わいせつの具体例としては、道行く人に陰部を露出する行為、公園での性行為、さらに近年逮捕者が続出している、ネット上でのわいせつ行為の生配信などが挙げられます。
公然わいせつ罪の法定刑
公然わいせつ罪の法定刑は、6ヶ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となっています。
強制性交等罪(刑法第177条)とは
強制性交等罪は、刑法が平成29年に改正されるまでは強姦罪と呼ばれていました。改正により、被害者は「女子」に限定されなくなり、行為は「強姦」から「性交、肛門性交又は口腔性交」(=性交等)に拡大されました。
強制性交等罪は非親告罪に変更
強制性交等罪についても、強制わいせつ罪と同様、非親告罪に変更されました。そのため、被害者が加害者を告訴(=処罰を求めること)しなくても、検察官は加害者を起訴することができます。
強制性交等罪の法定刑
強制性交等罪の法定刑は、5年以上の有期懲役となっています。
金銭等を渡して(又は約束をして)18歳未満の児童に対して性行為等をした場合
児童買春・ポルノ禁止法で規制されており、法定刑は5年以下の懲役又は300万円以下の罰金となっています。
金銭のやり取りの有無にかかわらず、18歳未満の児童と性行為等した場合
東京都等の青少年保護育成条例で規制されており、法定刑は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(1都3県で同様)となっています。
児童買春をあっせんした場合
児童福祉法で規制されており、法定刑は10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科となっています。
なお、児童買春・ポルノ禁止法によっても規制されています。
児童ポルノを所持、提供、製造・輸出入、撮影、公然陳列した場合
児童買春・ポルノ禁止法によりそれぞれ規制されています。