私選弁護人
私選弁護人は、その名の通り、ご本人やご家族等が直接、刑事事件について弁護士を選任した者のことです。
注意すべき点として、法律上、私選弁護人と国選弁護人とで、弁護人としてできる弁護活動の範囲に違いはありません。
しかし、私選弁護人は、”私選弁護人に依頼するメリット”でご説明するように、ご依頼者が被疑者として逮捕・勾留される前(=逮捕される前や逮捕された直後)の段階からご依頼いただくことで、ご依頼者のために早期に弁護活動を開始することが大きなメリットです。
そのため、弁護活動を開始できる時期の違いによって、依頼者の要望に沿ったきめ細やかな弁護活動を行うことができます。
国選弁護人
国選弁護制度とは、刑事事件で資力が不足しており私選弁護人を選任できない被疑者・被告人のために、原則として国が費用を負担することで、国が弁護人を選任するという制度です。
国選弁護制度は、従来は被告人(=起訴された人)のみしか認められていませんでしたが、
- ・平成16年:被疑者国選制度が導入される
- ・平成18年:被疑者国選制度の対象事件が、いわゆる必要的弁護事件(=死刑、無期、長期3年を超える懲役又は禁錮に当たる事件・刑事訴訟法第289条)に拡大される
- ・平成28年:対象事件が、全ての事件の勾留段階に拡大される
という経緯を辿っています。
被疑者国選制度は、勾留の際にご本人が国選弁護人を希望して初めて国が弁護人を選任する制度です。そのため、ご本人やご家族が逮捕・勾留よりも前の段階で国選弁護人を希望することはできないことになっています。
また、国選弁護制度は私選弁護の補完的な位置づけとなっているため、資力(=現預金)が50万円未満であることが条件となっており、50万円以上の資力を有する方は利用することができません。
国選弁護人の登録状況は、東京では弁護士数の61.0%となっています。しかし、東京は国選弁護人1人あたりの担当被告人数が最も少なく、1年で0.6人となっています(「弁護士白書」日本弁護士連合会・2019年)。
当番弁護士
当番弁護士制度とは、弁護士会が費用を負担することで、1回に限り、逮捕された人に対して無料で弁護士が原則として当日に面会に行くという制度です。逮捕された人は、当番弁護士と接見した後、引き続いて弁護人として依頼することができます。
当番弁護士の登録状況は、東京では弁護士数の25.5%となっています(「弁護士白書」日本弁護士連合会・2019年)。
①身体拘束の不利益
ある日突然逮捕によって最大3日間身柄を拘束され、その後に勾留されるとさらに最大20日間身体拘束が継続されます。
起訴された後も保釈が認められなければ、身体拘束は継続されます。保釈率は32.84%となっており(司法統計年報・令和元年)、およそ3人に2人は起訴された後も身柄を拘束されたまま裁判にかけられることになります。
②前科・前歴がつく不利益
前科(=確定判決により有罪を言い渡された事実)や前歴(=警察や検察などの捜査機関により被疑者として捜査の対象となった事実)が付いてしまうと、
- 本籍地市町村に備え付けられている「犯罪人名簿」に一定期間記録される。
- 捜査機関に犯歴・捜査の記録が残される。
- 医師、警察、弁護士、証券外務員等、一定の資格職に就けなくなる場合がある。
- 禁錮以上の刑については国家公務員や地方公務員の「欠格事由」にあたり失職することになる。
- 履歴書の「賞罰欄」の記載により就職に影響する可能性がある。
- 履歴書の「賞罰欄」に記載しないと将来的に経歴詐称として解雇処分や損害賠償責任を問われる可能性がある。
- 海外への渡航に際してビザの発給拒否や入国拒否を受ける場合がある。
などの不利益があります。
③解雇される・退学になる不利益
逮捕されると直ちに会社を懲戒解雇されるわけではありませんが、多くの会社では、刑罰法規に違反する行為を行ったことを懲戒処分の対象としています。そのため、有罪判決が確定した時点で解雇される可能性があります。
また、学生が逮捕されてしまった場合も、即退学になることはないと考えられますが、学生を退学処分にするかどうかは、学校側の裁量に委ねられています。特に私立学校の場合は校則や規則を確認する必要があるといえます。
④外界と遮断される不利益
警察に逮捕されると、検察に身柄が送られ勾留すべきかを判断するまでの最大72時間は、たとえご家族であっても被疑者と面会することはできません。また、留置場に入る際に携帯電話等も没収されてしまいます。そのため、これから自分がどうなってしまうのか、自分がいなくなったことで家族や職場がどうなっているのか等、全く分からない不安に晒されることになります。
また、接見等禁止処分が付されてしまうと、勾留された後であってもご家族や知人と面会することができません。
国選弁護制度の問題点
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①どんな弁護人が担当するかは選任されてからでないと分からない。
弁護士も人である以上、どうしてもご本人やご家族と相性が合わないというリスクがあります。もし相性が合わないと、円滑なコミュニケーションが取れないことにより、思うような弁護活動を行ってもらえなかったり、報告・連絡・相談が行われず想定外の不利益を被ってしまう可能性があります。
国選弁護人は国から弁護を依頼されて活動している以上、ご本人やご家族の判断で解任することはできません。裁判所に国選弁護人の解任を求めることはできますが、そのハードルは高く、ほとんど認められないのが実情です。
私選弁護人に依頼するメリット
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①早期の段階から弁護活動を開始することができる
国選弁護人は被疑者の勾留が決定した後の時点でしか選任を希望することができません。しかし、勾留が決定してしまうと、そこから被疑者の身柄の解放を求めることは難しくなってきます。
私選弁護人であれば、ご本人やご家族等のタイミングで選任することができます。そのため、私選弁護人は、そもそも依頼者が逮捕されないための活動や、仮に逮捕されてしまったとしても、勾留されないよう早期の身柄解放を求める活動を行うことができるのです。 -
②ご本人以外からの依頼で選任することができる
国選弁護人選任を依頼することができるのは、被疑者・被告人本人のみです。そのため、本人が弁護士を付けたくない場合に、ご家族が国選弁護人を選任することはできません。
私選弁護人であれば、ご本人以外にもご家族等(正確には、配偶者、直径の親族、兄弟姉妹、法定代理人、保佐人)が弁護人を選任することができます。そのため、(刑事事件はスピード勝負なのでじっくりと選ぶ時間的余裕はないかも知れませんが)最もご本人のためになる判断をご家族ですることができます。 -
③ご自身の要望に沿った弁護士を選任することができる
”相談内容”で詳しくご説明しますが、ご本人やご家族の置かれた立場や状況、また被害者の方の状況等によって、弁護士に依頼したい要望は様々であると思います。
こうしたとき、国選弁護人では制度上、被疑者が勾留決定されてからの対応になってしまうため、全ての要望に沿った弁護活動を行えるわけではありません。
私選弁護人であれば、逮捕や勾留を回避するための活動なども迅速に行うことができますし、ご本人やご家族のご要望をしっかりと伺った上で弁護活動を進めることができます。 -
④依頼者が弁護士を自由に選ぶことができる
国選弁護人は国が弁護士を選任するため、ご本人やご家族が自由に弁護士を選ぶことはできません。
私選弁護人であれば、ご本人やご家族の判断で弁護士を選ぶことができます。私選弁護人の選び方は、”どのような基準で私選弁護人を選べばよいか”をご参照ください。
①元検察官など刑事事件を専門に扱う弁護士が在籍するかどうか
検察官を経験しその後に弁護士となった者がいると、事務所内で検察官時代の経験や知識等が共有され、事務所全体の刑事弁護技術が向上します。
また、刑事事件を扱った件数が圧倒的に多いため、量刑相場や捜査機関の考え方や動向を熟知したうえでの弁護活動を展開することができます。
②使命感や情熱があり迅速に対応できる弁護士かどうか
刑事事件は短期間で手続きが進んでいくため、弁護活動も時間との勝負になります。そのような状況で、動きが遅かったり、稼働時間が限られている弁護士では、どうしても依頼者の要望に沿った弁護活動を行うには制限があります。
ご依頼があれば即日被疑者・被告人を接見して詳しい事情を聴取し、情熱を持って現場の調査や関係者との面会等を行うため迅速に対応してくれる弁護士こそが、信頼に足りる弁護士であるといえます。
③相談者と円滑なコミュニケーションが取れる弁護士かどうか
国選弁護人と異なり、私選弁護人はご本人やご家族の方が自由に選任することができます。
私選弁護人に選任する際には、一度相談してみて、ご本人やご家族の方との相性を確かめてみるのがよいでしょう。この人であれば、「こちらの意図を汲んできちんと対応してくれる」、「最後まで寄り添って一緒に戦ってくれる」、そのような信頼関係を構築し、不安を解消してからご依頼いただくことが、ご本人のためにも、ご家族のためにも重要であると考えます。
④HP等で費用を明示しているかどうか
私選弁護人を選任する場合、どのくらいの費用が掛かるは気になるところかと思います。刑事事件が時間との勝負であるとはいえ、切羽詰まった状況で費用についてきちんと確認せずに依頼をしてしまうと、後から思っていた以上の弁護費用を請求されることもあり得ます。私選弁護人を選任する場合は、費用についてもご依頼をされる前にしっかりと確認することが大切です。