ゴーン氏らは先日起訴されましたが、勾留中の容疑者を起訴した場合自動的に勾留が続きます。
保釈されることがなければ、裁判が終わるまで初回は起訴から2ヶ月後、その後は1ヶ月ごとに勾留が更新されます。
そうすると、起訴したのになぜ再逮捕・再勾留する必要があるのかという疑問が生じてくると思います。
これは、取調受忍義務を負わせるためです。
学説では反対説がありますが実務においては、容疑者が逮捕・勾留されている事件については取調受忍義務がある、つまり、捜査機関から取調べをされること自体は受忍しなければならないとされています(受忍義務はあっても黙秘権は保障されます)。取調受忍義務がない場合だと、仮に捜査官が取調べようとしても容疑者が「受けたくない」と言えば、それ以上取調べはできなくなります。
実際の場面でこのような拒否をされることはほとんどなく、大抵は応じてもらえるのですが、それはそれで問題が生じることがあります。
例えば、それまで否認していたのにその取調べで自白に転じた場合、「取調べを拒否することさえできたのに、否認していた容疑者がどうして自白に転じたのか。検事が何か不正な手段を用いて自白を獲得したのではないか」というあらぬ疑いをもたれるおそれがあります。また、軽い事案で起訴し、起訴後の勾留を利用してより重い余罪の取調べをすると、違法な別件逮捕と言われる可能性もあります。
したがって、取調べを拒否される可能性がある場合のほか、容疑者が否認している場合、取調べようとする余罪が起訴済みの事案と同等以上に重い事案の場合などには、いったん起訴した後にも再逮捕・再勾留をして取調受忍義務を負わせた上で取調べを行う場合が多いと思います。
これとは逆に、再逮捕をせず、起訴後の勾留を利用して余罪を取調べる場合も多数あります。
窃盗事件を何件も繰り返していて、積極的に自白しているような容疑者の場合などには、前述の問題が起こりにくいため、捜査経済の観点からも再逮捕・再勾留をするまでもないとして、起訴後の勾留を利用して捜査を進めて行きます。
今回のゴーン氏の場合は、否認をしているとのことですし、再逮捕の事案も起訴済みの事案と同等程度の重さですので、再逮捕・再勾留するのはもっともだと思います。
実質的に見ても、今回の再逮捕・再勾留事案は、起訴済みの事案よりも後の時期の出来事であり、それまでの取調べでは話を聞けていなかったと思いますので、この点の口裏合わせ等のおそれは残っており、取調受忍義務を負わせた上で取調べをする必要性が高いとも言えると思います。
ゴーン氏らの再逮捕・再勾留については批判的な意見もありますし、ご本人にはお気の毒というほかありません。ただ、前回述べたとおり最初の事件をしっかり起訴していますし、取取調受忍義務を負わせる必要があると考えられることなどからすると、この再逮捕・再勾留は不当とは言えないという結論になると思います。
もちろん、様々な専門家の方々が意見を仰っているように、虚偽記載罪の成否について検察側の法解釈が正しいかどうかの問題はありますし、身柄拘束に値するほどの重い犯罪なのかという問題はありますが、それらは別問題ではあります。