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元検事のコラム

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ゴーン氏の起訴と再逮捕について

捜査

ゴーン氏とケリー氏を起訴し、また、両氏を再び逮捕したという報道がありました。起訴したのは2010年度から2014年度の虚偽記載罪、再逮捕は2015年度から2017年度の虚偽記載罪ということです。

マスコミでは「再逮捕」と言われていますが、今回の手法は、よくある再逮捕と異なる方法のもので、珍しい部類に入ると思います。

実務でよく行われていたのは、勾留満期には「処分保留」して、起訴か不起訴の処分を決めないまま再逮捕するというものです。今回は起訴している点でこれとは大きく異なります。

実務家の見方としてはこの処分保留か起訴したかの点はかなり大きいポイントですが、報道ではあまり大きく取り上げられていないように思います。

逮捕されて勾留されれば、勾留請求から最大20日後の勾留満期まで身柄拘束されることとなります。そして、勾留満期を迎えた後、起訴されれば勾留が継続し、不起訴となれば釈放される、というのが原則的なあり方です。

ところが、別の事件の容疑がある場合、その別の事件で改めて逮捕・勾留を行うことが法律上可能であり、実務では、これを再逮捕・再勾留と呼んでいます。なお、同一の事件について例外的に二度目の逮捕・勾留をする場合も「再逮捕・再勾留」と呼びますが、ここでいう再逮捕・再勾留はそうでなく、異なる犯罪で逮捕勾留を繰り返す場合をいいます。

今の実務で再逮捕・再勾留をする場合は、勾留満期に最初の事件を処分保留としたまま再逮捕・再勾留を繰り返し、最後の再逮捕・再勾留の勾留満期で今までの事件をまとめて起訴や不起訴の判断をする、というのが良くあるパターンでした。

たとえば振込め詐欺の事案で電話をかける役の容疑者が摘発された場合には、通常複数の被害者が存在し、事件としても複数になるので、処分保留にしつつ再逮捕・再勾留を繰り返す手法がよく用いられています。

また、最近の事案では、品川区の土地を巡る地面師詐欺事件でも、この処分保留をしつつ、再逮捕・再勾留を繰り返す手法が用いられているようです(今年10月に逮捕されて2ヶ月近く経ちましたが、未だに起訴されたという話は聞かないので、処分保留にしつつ再逮捕・再勾留を繰り返していると思われます。)。

どうして処分保留にして再逮捕・再勾留するのか、と言いますと、それぞれの事件に共通する部分が解明できない場合があり、最悪間違いが生じる危険があるなどの理由からです。

振込め詐欺の事案ですと、Aさんから100万円だまし取った件と、その翌日にBさんから200万円だまし取った件は別事件ですが、犯罪組織の全体像や犯行の手法、各容疑者の役割分担、各容疑者が関与するようになった経緯、用いた道具の調達方法等々は共通です。その共通部分の捜査はAさんの事件の捜査であり、Bさんの事件の捜査でもあります。

そして、Aさんの事件で逮捕・勾留して捜査を進めても、その勾留満期までにこれらの共通部分を全て解明しきれない場合があり、そうであればBさんの事件で再逮捕・再勾留して、その勾留満期までに捜査を進めて解明を目指そうということになるわけです。

Aさんの事件で逮捕・勾留された容疑者Xについて、その勾留満期の段階では「詳細は不明だが、XがAさんの事件の頃に犯罪組織で電話をかける役を担当したことは間違いない」として起訴してしまったものの、その後Bさんの事件での捜査中にようやく送られて来た捜査照会の回答を見ると「実は容疑者XはAさんの事件の日の前日にグループを辞めていた」ことが分かってしまう場合があり得ます(利用履歴等について業者に捜査照会しても、回答に1ヶ月も2ヶ月もかかってしまい、1回目の勾留満期までに間に合わないというのはよくあることで、刑事と検事の悩みの種となっています)。

そのようなことがあり得るため、重大かつ複雑な事案で、複数の事件が繰り返されている場合には、どうしても処分保留にしつつ再逮捕・再勾留して、起訴や不起訴の判断を先送りしてしまう傾向があるのです。

もちろんこのような処分保留と再逮捕・再勾留を繰り返す手法は褒められたものではなく、法律で定められた身柄拘束期間の潜脱だという批判を受けるのもやむを得ないかもしれません。2回目、3回目の再逮捕・再勾留を利用して、1回目の逮捕・勾留の容疑の捜査をしているのではないかという批判があり得るところです。

しかし、そうはいっても、このような再逮捕・再勾留は、法律上の逮捕や勾留の要件に欠ける点はなく、実務上も長らく容認されてきたように思います。弁護人が不服申し立てをすることも、実際にはあまりありませんでした。

私は、当初ゴーン氏の事案でも、このように処分保留した上で再逮捕・再勾留するのだろうと思っていたのですが、起訴した上での再逮捕・再勾留ということであり、正直驚きました。

これは、現時点の捜査の結果で絶対に間違いない確信に至った、という検察の自信の表れとみることができます。

もっとも、他方においては、やはり、日本の「人質司法」に対する海外からの批判に配慮したものではないかとも思えます。

起訴した上で再逮捕・再勾留をするのであれば、1回目の逮捕・勾留にかかる容疑は既に起訴という判断をしてしまいますから、2回目、3回目の再逮捕・再勾留を利用して、1回目の逮捕・勾留の容疑の捜査をしている、という批判はあまり当たらないことになると思います。

ゴーン氏の件では、取調べにおける弁護士立会いが認められていないことなど、日本の身柄拘束の制度について批判が集まっており、それを意識せざるを得なかったのかもしれません。

今回、検察が勾留満期に起訴をしたというのは、処分保留をして再逮捕・再勾留をするという従前の実務慣行に照らすと、フェアな処分であったと思います。

ただ、この点があまり取り上げられていないのは、残念ではあります。

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