ゴーン氏が身柄拘束されているのは、罪証隠滅のおそれがあるからだろうと前回述べました。
具体的には物証を隠滅(ねつ造も含む)するおそれがある場合や、被害者や目撃者あるいは共犯者などに圧力をかけたり、あるいは、口裏合わせをしたりして、その人々の証言や供述を歪めるおそれがある場合に罪証隠滅のおそれが認められます。
今回のゴーン氏の場合、最も可能性が考えられるのは、口裏合わせの危険だと思います。
共犯者や(共犯者のレベルには達しないにしてもそれに近い)関係者がいる場合、これらの者と口裏合わせをして、罪を免れようとする危険があると認められる場合が一般的に多いと思います。
たとえば、共犯者との間で、犯罪の立案や役割分担、報酬の分配を話し合っている場合、これは犯罪の成否や情状の判断のために非常に重要な事項となり、解明する必要が出てきます。
もっとも、その内容は当事者しか知り得ず、録音をしたり議事録を作ったりしなければ物証として残ることもありません。
したがって、捜査機関としては、容疑者本人のほか、共犯者や関係者から真実の供述を得て、真相を解明していくことになります。
これが、口裏合わせをされて皆が共通の嘘をついてしまえば、真相は闇の中になる可能性が出てきます。
とりわけ、容疑者や共犯者が犯行を否認していれば、口裏合わせをされて嘘をつかれてしまう危険は高いといえます。
容疑者本人は、(身柄拘束されるくらいなら)「口裏合わせなんかしませんよ」と言うでしょうし、口だけでなく実際に固く心に誓うことも多いと思います。
しかし、身柄拘束で判断されるのは、口裏合わせを「疑うに足りる相当な理由があること」であって、容疑者本人がやらないと誓っている、というだけで疑いを晴らすのはなかなか困難です。
口裏合わせは、直接会って話すだけでなく、電話を通じても、ネットを通じても可能ですし、第三者が間に入って伝言ゲームで行うことも可能ですから、やろうと思えばできてしまいます。
口裏合わせのおそれが乏しいと説得的な主張するのは、現実にはなかなか難しいと思います。
今回、ゴーン氏については、関係者が相当多数になると考えられますし、ゴーン氏やケリー氏が否認しているようですので、口裏合わせの危険は高いと言わざるを得ません。
とくに、二人は外国に拠点がある人ですから、日本国外で口裏合わせをされてしまうおそれもあります。
そうすると、今回の件について裁判官が逮捕や勾留を認めるのは、実務感覚としてはやむを得ない、というよりむしろ当然に近いという感覚です。
もっとも、検察としては、更に2015年から2017年度の虚偽記載罪で、さらなる逮捕・勾留を予定していると報道されています。
その点について、最近の身柄拘束の事情に絡めて次回述べていきたいと思います(次回に続く)。