強制性交等罪で起訴された元俳優が保釈されたという報道と、日産元会長が再度の保釈請求をしたという報道がありました。
元俳優の場合、(検察の準抗告はありましたが)あっさり保釈が認められたのに対し、日産元会長の場合は今回はどうなるか分かりませんが、今までは2度も棄却されました。
その違いは何でしょうか。
保釈についての制度については当ブログでも以前触れました。
制度としては除外事由(刑訴法89条各号)に該当しない限り認められる「権利保釈」と、裁判官の裁量による「裁量保釈」があります。
元俳優の場合、法定刑が重い強制性交等罪で起訴されたので権利保釈の除外事由に該当します(刑訴法89条1号)。
ですから、罪証隠滅のおそれ(刑訴法89条4号)があるかどうかの判断をするまでもなく、裁量保釈の道しかありませんでした。
この点で日産元会長の場合よりも不利だったといえます。
にもかかわらず、裁量保釈があっさり認められたわけです。
裁量保釈の判断においては、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれ、勾留されることによる不利益等の要素から判断されます(刑訴法90条)。
元俳優の事件の場合、本人と被害者以外に重要な証言ができる人はいないと思いますので、罪証隠滅のおそれとしては、被害者に働きかけをするおそれしか想定できません。
もっとも、この被害者は出張マッサージ店の従業員とのことですから、元俳優はその被害者の住所や電話番号などを知らないはずです。
つまり、元俳優が仮に被害者に働きかけようと思っても、現実的には不可能だと考えられるのです。
このように考えますと、罪証隠滅のおそれはないと判断されるのはもっともだと思います。
(逃亡のおそれについても、失職したとはいえ有名人だし、逃亡は無理だろうという判断ではないかと思います。)
他方、日産元会長の場合は、関係者が多数存在し、かつ、検察が事情を聞けていない人物もいたようです。
しかも、日産元会長がその関係者がどこの誰だかよく分かっており、連絡を取ることは比較的容易です。
したがって、罪証隠滅のおそれが高いと判断される可能性は、それなりに高いと思われます。
さて、ここまでは、「事件を認めているかどうか」について敢えて触れませんでした。
ひと昔前までは、「否認している=罪証隠滅のおそれあり」と判断される場合が多かったと思います。
しかし、現在ではこのような単純な判断がされることは減ってきていて、実質的な判断がされるようになってきました。
私は、罪証隠滅のおそれについては、①罪証隠滅行為をすることが客観的に可能かどうか、②被疑者・被告人がその罪証隠滅行為をやりそうなのか、という順序で検討しています(多くの検事や裁判官、弁護士も同じような考え方をしていると思います)。
否認している場合は②に影響しますが、①には関係がありません。
元俳優の場合は、先ほど述べたように①がないわけで、仮に否認していたとしても罪証隠滅のおそれはないという判断になったと思います。
この点で日産元会長の場合と大きく異なります。
日産元会長の場合に①を否定しきるのは難しいと思いますし、否認している以上②も否定しがたいと思います。
そうすると、罪証隠滅のおそれを否定するのは困難で、刑訴法89条4号に該当する以上権利保釈は難しいと考えられます。
保釈を得るには、逃亡のおそれがないことや、身柄拘束が続くことの不利益を主張して、裁量保釈をねらう作戦になるのではないでしょうか。
いずれにせよ、保釈の判断は、犯罪の重さや否認しているかどうかという要素だけで決まるものではなく、それぞれの事案ごとに、様々な事情を丁寧に検討する必要があります。