公判で検察官が「今日は求刑できません」と発言して、延期になったという「事件」があったと報じられています(2019年3月2日毎日新聞)。
争いのない常習累犯窃盗事件で、検察官は、論告を読み始めたのに求刑をせず、次回に延期したというのです。
その原因はこの記事に書かれているとおりで間違いないでしょう。
求刑は捜査を担当する検察官が上司の決裁を取って決定するところ、公判を担当する検察官には決定権限がなく、その場で対応できなかったという経緯だったと思われます。
公判期日が迫っているのに求刑が決まっていない、ということはよくあることです。
捜査担当検察官は公判期日を意識していないので、公判担当検察官から連絡する必要があります。
捜査担当が先輩だったりして言いづらい場合も少なくありませんが、それでも強く言って決めさせなければなりません。
今回はそのあたりの連絡を怠っていたということでしょうが、このような事項の管理は公判担当の基本中の基本です。
当日に気づいてバタバタすることはありますが、公判の審理中に気づくというのは遅すぎます。
この記事で気になったのは、公判には男性検察官の他に上司と思われる検察官が立ち会っていたということです。
公判に複数の検察官が立ち会うのは、ふつうは、裁判員裁判や複雑な否認事件など検察官の負担が大きい事件の場合です。
争いのない常習累犯窃盗事件は、検察官の負担がかなり少ない部類の事件ですから、通常は1人で立会します。
にもかかわらず複数の検察官が立会したというのは、この男性検察官が新人(新任検事)だったので、指導役の先輩検事が付き添ってきたということでしょう(厳密には「上司」ではないと思います)。
検察官が新人だったために事件の管理ができていなかった、というのが今回の真相だと思います。
ここまで述べてきた事情は検察内部のもので、被告人や裁判所には関係のない話。
無駄に期日を延期するのは一般論として被告人にとって不利益ですし、弁護人や裁判官にも迷惑です。
記事でも弁護人が怒っていましたが、至極もっともです。
もっとも、裁判官は、おそらく延期した分だけ未決勾留日数の算入を増やしているはずです。
これは、判決前の身柄拘束期間の一部を刑期に算入し、その分刑期を短縮するというもので、何日算入するかは裁判官が判決で決めます。
今回も延期した分だけ未決勾留日数が多く算入されて刑期が短くなっているはずで、被告人の不利益が最小になるよう調整されていると思われます。
逆に言えば、そういう調整が働くからか、今回のような件はあまり報道されてきませんでした。
似たようなことはこれまでにもあったはずですが、闇に葬られてきたと思います。
今回の件も、問題があったことは検察内部で報告されてこなかったのではないでしょうか(地検の幹部が「事実関係がわからない」と言っているのもそのためだと思われます)。
このような報道がなされると全国の検察官の戒めになりますので、非常に意義が大きいと思います。