保釈されていた日産元会長が再逮捕され、この事件が再び話題を集めています。
保釈後に再逮捕されることは珍しく、「釈放されたのにまた逮捕というのは理不尽ではないか」と思うのが普通の感覚かもしれません。
ただ、法律的にみると、保釈や逮捕・勾留は事件ごとに判断するので、ある事件で保釈となっても、余罪の嫌疑があり、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるならば、その余罪で逮捕・勾留されることは十分にあり得ます(なお、保釈の判断の際には、余罪の罪証隠滅のおそれについては考慮されません)。
罪証隠滅の典型は関係者との口裏合わせです。
事件が違い、関係者も異なるのであれば、保釈された事件では口裏合わせのおそれが低くても、余罪では口裏合わせのおそれが高い、ということはあります。
その場合、余罪の嫌疑が十分ならば、逮捕や勾留の要件は満たされることになるのです。
今回は、インターネットの利用が制限されるなど保釈条件が厳しかったようで、普通に生活している人に比べれば罪証隠滅が難しい状況だったと思います。
しかし、事件は今までの事件と全く別であり、関係者も全く異なりますし、ましてや妻や息子の名前も出てきているようですから、口裏合わせのおそれがあると判断されたのはやむを得ないと思います。
保釈中に、逮捕するのは異例だという報道もありましたが、それは確かにそのとおりかもしれません。
ただ、それは単にそのような事例が少ないということに過ぎず、認められにくいなどという意味ではないと思います。
保釈中に逮捕される場合としては、①余罪捜査が続いている状態で保釈され、その後余罪の容疑が固まって逮捕される場合、②保釈された後に余罪があることが新たに発覚し、その捜査の結果逮捕される場合、③保釈中に新たな犯罪に至る場合、の3パターンがあると思います。
②はそもそもレアケースですし、③もさすがに保釈中に犯罪に及ぶ人はあまりいません。
今回は②や③ではなく①だと思いますが、①に該当する場合は、多くの場合は保釈請求しません。
せっかく保釈金を積んで身柄解放されても、また逮捕されれば無駄になってしまうのですから(後で戻っては来ますが)、どうせ保釈請求するなら余罪の捜査が終わってからにしたほうが合理的ということになるのです。
被告人が保釈請求してくれと言っても、弁護人としては「余罪捜査が終わってからにしましょう」と説得する場合がほとんどだと思います。
逆に、余罪捜査が続いているのに保釈請求するならば、余罪で逮捕されてしまうことを覚悟の上で敢えて請求する、ということになります。
元会長の弁護士もそのことは当然分かっていたでしょうし、元会長に説明していたはずですから、再逮捕はある程度覚悟していたのだろうと個人的には思っています。
こんなに早いとは思わなかったとか、あの件の捜査はうまくいかないと思っていたのに、という意味で予想外ということはあったかもしれませんが。
保釈中の再逮捕については、法制度の異なる外国から様々な批判があるかもしれませんが、日本の刑事訴訟法においては、問題がありません。逮捕状が発付され、勾留が認められ、勾留の不服申し立て(準抗告)も棄却されているのは、そのことを端的に表しています。
今回問題となり得るのは、それよりも、再逮捕と同時に行われた捜索差押など、付随する手続ではないかと思います(次回に続く)。