殺人罪での勾留請求却下が確定したという件が報じられています。
富山県でベトナム人技能実習生が殺人の被疑事実で勾留請求されたところ、富山簡裁がこれを却下し、その後検察が準抗告をしたものの却下の判断が維持され、さらに最高裁に特別抗告したもののやはり判断が維持されたとのことです。
この件に関しては、6月9日付けで富山県弁護士会が会長声明を出しており、事実関係はそこに詳細が書かれています。
報道等も参照しますと、事案の流れとしては、
①警察が6日間にわたって被疑者をホテルに宿泊させつつ「任意の取調べ」を行った
②その後、死体遺棄罪で逮捕・勾留した
③②の勾留中、①が違法であるという理由で弁護人が②の勾留の準抗告を申立て、その結果勾留が取り消された
④被疑者をいったん釈放した後、今度は殺人罪で逮捕し、検察が勾留請求をした。
⑤ところが、富山簡裁が④の勾留請求を却下し、検察が準抗告したものの却下の判断が維持され、その後最高裁に特別抗告したものの勾留却下の判断が維持された
ということのようです。
この件の肝は①の「任意の取調べ」が違法であると言うことです。
一般論として、事件の被疑者に対して任意で取調べを行うことは可能です。
ただ、「任意」というのが形だけのもので、実質的に強制であれば違法となり得ます。
被疑者の身柄を拘束し、実質的には逮捕をしているにもかかわらず、逮捕状を得ていないのであればこれは重大な違法と言わざるを得ません。
逮捕前に被疑者の取調べを行う場合はありますが、逮捕していないのですから任意の取調べでなければならないのは当然です。
過去に、強引な取調べを行ったなどと指摘されて問題になった事案が多くありますので、警察も慎重に取調べをしていると思います。
あまりに長時間の取調べをしないとか、取調中に取り囲まない、弁護士に対する連絡を邪魔しない、しっかり帰宅させるなど、通常は配慮をしていると思います。
今回は、ホテルに宿泊させ、その間も事実上監視していたということが問題になったとのことです。
殺人という重大事案であり、被疑者が逃げる危険性が高いと考えたのかもしれませんが、配慮を欠いていたと言わざるを得ないでしょう。
今回の事件では、④の殺人罪での勾留請求と同時に死体遺棄罪で被疑者を起訴しており、おそらく死体遺棄の起訴後勾留がなされていると思われますので、被疑者が釈放されることはないと思います。
ただ、殺人罪での勾留ができないため、被疑者には取調受忍義務がありません。
つまり、被疑者が殺人の容疑での取調べを拒否すれば、警察や検察は取調べができないことになります。
被疑者の供述を得られない中で、果たして起訴されるのかが注目されます。