性・風俗事件/痴漢・盗撮
男性が電車内で隣の女性の太ももを触れたという痴漢の事案です。
事実を否定していた否認の事案でしたが、最終的に不起訴となりました。
対応
知り合いを伝って「逮捕されたので駆けつけてもらいたい」との依頼を受け、直ちに警察署に接見に行きました。
ご本人とは初対面でしたので、まずは現在の職業、経歴、家族関係、前科前歴その他人となりについて聞き取りました。
刑事弁護においては、事件の内容ももちろん重要ですが、ご本人の身上・経歴も非常に重要な要素となります。どのような仕事をしているのかという点や家族関係などは、身柄拘束を受けるかどうかの判断要素となります。また、前科前歴の有無は、身柄拘束を受けるかどうかという点のみならず、刑事処分(起訴か略式請求か起訴猶予か)にも重大な影響を及ぼします。
ですので、ご本人の身上・経歴を確認することは、刑事弁護において第一に行わなければなりません。
本件では、ご本人は安定した会社員で家族と一緒に安定した生活をしている方でした。前科前歴もなく、警察に関わったのは今回が初めてという方でした。
次に、事案の内容について確認しました。
容疑の内容は隣の女性の太ももを触れたというものでしたが、ご本人の話によれば、わざと触れたのではなく、意図せず偶然触れてしまっただけとのことでした。
痴漢(正確には都道府県の迷惑防止条例違反)は故意犯ですので、わざとでなければ犯罪は成立しません。ですから、ご本人の供述は、犯罪の成立を否定するもの、つまり否認でした。
否認の場合にどのような対応をすべきかという点は、非常に悩ましい問題です。本件でも対応に悩みましたが、弁護人は、わざと触れたのではないという主張をしっかりと貫くようアドバイスをしました。ご本人もそれに従って取調べにおいてわざと触れたのではないとの主張を貫きました。
結果として本件は不起訴となり、刑事処分を受けることを回避できました。
ポイント
否認事件の場合にどのような対応をするかは非常に悩ましい問題です。
弁護人としては、本件のように被疑者に対して主張を貫くようアドバイスする場合や、被疑者に黙秘を勧める場合があります。弁護人が被疑者の主張が事実に反すると判断した場合は、正直に話して認めるよう勧める場合もあり得ます。
否認事件では被疑者に必ず黙秘するよう指導する弁護士も少なくありません。弁護人は起訴後でなければ警察や検察が持っている証拠を見られませんので、被疑者の供述する内容が被害者の供述や他の証拠と矛盾するのかどうか判断できません。被疑者の供述が他の証拠、とりわけ客観的な証拠(例えば防犯カメラの映像)と矛盾してしまう可能性があり、そのような矛盾した供述を貫くことは被疑者にとってマイナスが大きいため、それを回避するために黙秘が有効となる場合はあります。
しかしながら、いかなる場合でも黙秘が有効とは限らないと考えます。被疑者が容疑に対して具体的な反論があるにもかかわらず、黙秘してしまえば検察官がその内容を把握できません。その結果、検察官がそのような反論があることを考慮できず、その結果起訴をしてしまう場合もあります。
その場合も裁判で反論し無罪が得られる可能性はありますが、裁判には多くの時間と労力を費やします。何より有罪になるのではないかと不安な日々を過ごさなければなりません。
そのような事態を避けるべく、捜査段階から黙秘せずしっかりと反論をしておくべき場合もあるのです。
また、被疑者が嘘をついているように思われる場合は、本当のことを話すよう説得する場合もあります。
やっていないのにやったと認めることは絶対にあってはなりませんし、弁護人は、たとえ世間を敵に回しても被疑者の味方でなければなりません。
しかしながら、誰がどう見ても嘘だというような主張を被疑者が繰り返すのも問題です。反省していないとみなされて、刑事処分が重くなる危険もありますし、被害者との示談もしづらくなります。
このように、否認事件では、多様な点が問題になり、様々な事情を考慮して対応を決めなければなりません。考慮要素は事案によってまちまちであり、まさにケースバイケースの判断が求められます。弁護人としては、過去に経験した事例を参考にしながら、このケースであればどのような証拠があるのか考えながら、事情を分析検討して、その事件で適切な対応を模索することになります。
そこではまさに弁護人の腕が問われます。
本件では、ご本人の主張の内容が十分信用できるものであり、女性が被害を訴えたのは勘違いであると判断できたことなどの事情から、ご本人とも十分に協議した上で主張を貫くという対応をしました。その結果、不起訴となりました。しかし、似たような事案であっても同様の対応が適切とは限りません。
否認事件の場合、対応が非常に難しくなるため、信頼のできる弁護士としっかり協議をすることが重要です。