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元検事のコラム

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警察官は人の家の中に立ち入ることができるか

捜査

昨日(10月29日)、30代の女性に対する覚せい剤取締法違反(使用)の件で、京都地裁の裁判官が警察の違法捜査を理由に無罪判決を言い渡した、と報道されました。

いわゆる違法収集証拠の問題で無罪となった事案で、警察官の証拠収集に(令状主義を没却する)重大な違法があったため、裁判に提出された証拠が排除され、その結果十分な証拠がなくなり無罪になったというものです。

報道によれば、女性が「交際相手から暴行を受けている」と110番通報し、警察官が駆けつけたところ、女性の感情の起伏が激しく、覚せい剤の前歴があることが分かったので、警察官が女性が覚せい剤を使用しているのではないかと疑い、女性の家の中に立ち入り、帰るように言われても帰らなかったとのことです。その際、警察官が女性の腕の注射痕を写真撮影し、その写真を元に強制採尿令状が発付され、採尿した尿から覚せい剤成分が検出されたということですが、元々の家に立ち入ったこと(あるいは帰らなかったこと)が違法なので、その後の手続も違法となり、結果、覚せい剤成分が検出された鑑定書が裁判の証拠から排除されたということでしょう。

この事件のポイントは、警察官が無断で人の家に入り、あるいは、帰るよう言われても帰らなかったという点です。警察官は犯罪捜査や防犯を職務としていますから、一定の場合に人の家に入ることも可能となります。

典型的なのは、逮捕状を持って逮捕する場合、捜索差押令状を持って家の中の捜索をする場合、検証令状で家の中を検証する場合など、裁判官の発付する令状がある場合で、このような場合に無断で立ち入りができるのはある意味当然でしょう。実際、警察官は「令状がないと勝手に入ってはいけない」ということをよく理解していて、慎重に職務を行っていると思います。犯罪被害者の家に立ち入る際に、被害者の同意が得られるような事案であっても、捜索差押令状や検証令状をわざわざ取ってから立ち入る、というようなケースも結構あると思います。

もっとも、今回の件は、令状の発付を受ける余裕がなかった事案と思われます。警察官としては、女性が薬物を使用しているのではないかと疑っており、にもかかわらず女性が家の中に入ってしまったので、何とかしようとして家の中に入ってしまったのだと思われます。

ところが、警察官が令状なしに人の家に入ることができる場合は、きわめて例外的です。警察官職務執行法6条1項には、人の生命身体等に危害が切迫したような場合には立ち入ることができるとしていますが、このような場合くらいしかないと思います。家の人の同意があれば問題はありませんが、この点もかなり慎重に判断しています。犯罪被害者ならまだしも、犯人側が警察官を家に入れることを同意したとしても、それ真意なのか、警察官からプレッシャーを受けたのではないかという点を慎重に検討することになります。今回は、先ほど述べた警察官職務執行法の状況になく、女性の同意もない上に帰れと言われたのに帰らなかったようですから、違法とされるのは当然でしょう。

とまあ、我々法律家は結果論であとから色々言えるのですが、当の警察官は余裕がない中でとっさの判断を求められるわけです。今回の警察官も「人の家に入ることを何とも思わない悪い警察官」ではなかったと思います。覚せい剤を使っていると疑っている人が家の中に入ってしまい、このままだと摘発できないかもしれないと焦って、判断を誤ってしまったのではないかと思います。

先ほど述べたような法律の構造をとっさに思い浮かべ、その場の状況に当てはめて適切に行動するというのは、我々法律家であっても必ずしも容易ではないと思います。

だからといって違法行為が許されるわけではもちろんありませんが、警察官に求められる法律の知識や判断力は、我々が思っている以上に厳しいものだと思います。

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